ビジネス

#231. 元アルバイト先の居酒屋から学んだビジネスに大事なこと

私は大学生のころ、八王子にある居酒屋でバイトをしていた。

一見どこにでもいそうな大学生だが、多くの人と異なる点がある。それはチェーン店ではなく「個人経営店」で働いていたこと。当時は赤いタオルを頭に巻いた一見コワモテの大将とアルバイトが2名、混雑時には大将の奥さんが手伝いにくるといったスタイルで経営していた。

一度に入るお客さんの人数はせいぜい20人程度のこじんまりとしたお店。

このお店が今年の5月に「17周年」を迎えた。

多くの飲食店が店をたたむ中、これは個人経営店としてはすごいことだと思う。なにがすごいかと言うと、集客に不利な条件をはねのけている点だ。

まずはロケーション。このお店は西八王子という小さな駅から少し歩いた住宅地にポツンとたたずむ。人通りは決して多くない。のれんは掲げているが、猛烈に周囲にその存在をアピールしているわけではない。近づいてみると暖色系の色に染まった店内が覗けるが、遠くからではこのお店がやっているのかどうかすらもわからない。

しかも食べログで検索しても、コメントを書いている人が極端に少ないので、それを見て「行こう!」と考える人も少ないと思う。広告費も1円も出していない。

それでもナゼかいつもお客さんで賑わっている。アルバイトとして働いていた当時は気にしていなかったが、これは「普通ではない」ことだと気づいた。

そこでこの記事では、「そのようなお店がなぜ『17年』も経営が続いているのか」、その要因について、元アルバイト店員の立場から探ってみることにする。

1) 常連のお客さんが多い

まず、第一に常連のお客さんが多い点だ。8席あるカウンターには知った顔が必ずと言っていいほど座っている。こういったロケーションの不利なお店は「一度来てくれたお客さんをいかにリピーターにさせるか」ここが大事なのだと思う。

外から見えるカウンターにいつもお客さんが座っているのを見て、「お店に入ってみよう」と思う人もいるだろう。店内がガラガラでは、はじめて入ろうとする人は躊躇するだろう。この不安を常連さんが見事に打ち消している。

2) 常連さんが「未来の常連さん」を連れてくる

「常連さん効果」はまだある。それは、彼らがこのお店を知人に紹介するということだ。これで広告には1円も出していないのに口コミでそのお店が広まってくる。そして、常連さんが知人をこのお店に連れてきて、彼らが次々に常連化していく点だ。これも一度きたお客さんのココロを掴んでいるということ。

このサイクルが安定した集客を可能にしている。

3) ひとりひとりへのフレキシブルなサービス

では、なぜ一度きたお客さんがリピーターになるのか。まずそれはフレキシブルなサービスにあると思う。年がら年中同じメニューのチェーン店とは異なり、その日の仕入れによっての日替わりのものがある。だから、毎回いくたびに違った料理を楽しめるのだ。

「つぎに来たらなにが食べれるんだろう?」

この楽しみがもう一度、行きたいと思わせる。

加えて、大将はお客さんのリクエストに嫌な顔一つせずに対応する。いわゆるメニューにはない「裏メニュー」。そうするとお客さんに「特別感」という見えない味(付加価値)のついた料理を提供できる。自分のリクエストが受け入れてもらったよろこび、そしてそれが抜群に美味しければ誰だってまた来たくなる。

4) 常連のお客さんも大事にしている

大将はすでに常連化したお客さんもとても大事にする。年末の営業最終日には常連さん限定で貸切忘年会、さらに定期的にゴルフコンペを開催し、そこの景品でお店の割引券をつけたりしている。常連さんも「特別感」を得られ続ける。

ここで注目すべきが、これらのイベントが「常連さん同士が仲良くなる機会」としても機能していること。お店で何度か顔を合わせていても、話しかける機会はそこまで多くないだろう。しかし、このようなイベントを設けることでお客さん同士が仲良くなり、お店に行けばそこには「友達」が飲んでいる状態になる。

だから野球の日本シリーズやサッカーの日本代表の試合がある日は、それを一緒に楽しむために多くの常連さんがお店を訪れる。つまり、飲みにいく場所から、「一緒に楽しむ場所」に変えているのである。

5) 住宅街というロケーション

記事冒頭で、集客に不利なロケーションと書いたが、よくよく考えてみれば住宅街のプラスの側面もあることに気づいた。それは会社からの帰宅時にお店の前を通る人が一定数いること。通勤ルートが毎日変わるという人はいないだろう。そこのルートを高確率で毎日歩き、お店が目に入る。

そして集客に向かない場所と思われることで、ライバル店が周囲にないことだ。潜在的なお客さんは仕事で疲れた中で歩いていると、ポウッと暖かい色を放つお店が見えてくる。中を覗くと楽しそうにお客さんが飲んでいる。「いつかその中に自分も加わってみたいなぁ」と思う。

こうして潜在的なお客さんを獲得できる仕組みになっている。そして一度お店に入ったらリピーターになる。

6) 大将の気前のよさ

ここのオーナーである大将はなんといっても気前がいい。ケチケチ精神がみじんも感じられない。これはお客さんに対してだけでなく、アルバイトの私たちに対しても、だ。

まかないはたっぷりお刺身の乗った海鮮丼を大将自らの手でふるまってくれたり、残ったご飯は持ち帰らせてくれる。そして今でも感謝しているのが、私が就活中にバイトの回数が減ったときでも「店に夕飯食べにこいよ!」と電話をくれるのである。

ここでバツグンに美味しい夕飯とビールまでふるまっていただいた。もちろんお金はとらない。こんなお店他にあるのだろうか。大阪で働いていた期間も帰省時にはこのお店に立ち寄って挨拶をしていた。ここニュージーランドに来る前も、フィリピン留学で知り合った仲間と飲みにいった。

こんな感じだから、アルバイトがすぐに辞めるということがない。

年末の最終経営日の忘年会に参加させてもらったときのこと。突然Tシャツを渡され、「ん?」となっていると「いいから、着替えろ!」とまさか店員さん側で参加することになったのだ。サラリーマンになってから4年目だったのでバイトの頃の記憶はあやふや。

でもお客さんの中には顔見知りの人も大勢いたので、そんな私も笑いながら受け入れてくれれた。なんとも温かいお店なのだ。

7) この経験は一生の財産

このように、気前の良い一見コワモテの大将により、常連さんが新しいお客さんを連れてくるサイクルと、潜在的なお客さんを常連にするというシステムが「17年間」繁盛し続ける要因であると感じた。

もちろん、一度きたお客さんの心をつかむ料理のクオリティがあってこそ活きるワザであるので、この条件を満たせば他のお店も必ず繁盛するということではないだろう。

いずれにせよ、このお店で2年半働かせていただいたのは一生の財産である。

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